35 その後◇果樹園の夢◇

道路が開通してから約3か月が経ちました。もう秋も終り、道も一面落ち葉に覆われて冬のやってくるのも直近です。山小屋予定地の手前に道が大きくカーブする箇所があるのですが、この左手に比較的緩やかな南斜面が有りますので、ここを開墾して念願だった果樹園を造ろうと思います。 秘密基地を造る目的の一つに、自給自足的な生活体験も含まれていましたので、山林を購入したら出来るだけたくさんの実のなる木を植えて、その収穫の喜びを味うのが長年の夢でした。


下の地図で直角にカーブした所から撮った写真です。

ここは、杉を搬出したあと、新たに植林されずに放置された為に、一面落葉性の雑木で埋め尽くされています。
2011年10月29日



緑色の部分が果樹園です。

植える果樹が増えるごとに拡張工事を行い、3回目の拡張工事を終えたところで最後になりました。


斜面には杉を切り出した後の切り株がまだたくさん残っています。道を作る時はこれらをひとつひとつ時間を掛けて取り除いていたのですが、今度は逆にこの切り株を利用して段々畑の様に果樹を植えるスペースを造っていくことにします。
傾斜地のうえ、切り株の位置を見ながら植樹する場所をひとつひとつイメージして造成していきますので、ここでの作業はコマツ君の手を借りずに全て人力で行うことになりました。



切株を利用して丸太を並べ、その上に樹を植えるスペースを造ります。

2011年11月9日

雑木の伐採と土留めや杭にする大量の丸太の準備をするのも含めて、果樹園の造成(第一期)を完了するのに約二か月ほど掛かりました。

この辺りはシカやイノシシなどの野生動物が沢山生息しており、苗木を植えても何か手立てをしないと直ぐに食べらてしまいます。オヤジもここの作業中に何度か遭遇しました。イノシシが2回、日本鹿が3回、カモシカにも3回会いました。 山林を購入した最初のころに植えた桜の木も全て食べらてしまいましたので、対策として周りを全て有刺鉄線と頑丈な養殖ノリ網で囲い、野生動物が中に入れないようにしました。



ノリの養殖網は近所のJAで見つけて入手しました。一枚の長さは約18m程有り、これを5枚使用しています。

2011年12月18日

3月も末になり、そろそろ暖かくなってきましたのでさっそく果樹の苗を植えました。最初に植えたのは渋柿の「堂々蜂屋」と受粉用の「筆柿」です。ここは標高があるので秋の気温低下が早く、甘柿は上手く糖分を蓄えることが出来ませんので渋柿を植えました。収穫したら干し柿にする予定です。

そのほかにプルーンを2種「サンプルーン」と「スイートサン」、ブルーベリーを数種類、栗を3本「ポロタン」「国見」「丹沢」、プラム「井上」、ザクロ「スイートハニー」を植えました。



最初に植えた渋柿の「堂々蜂屋」です。

2012年3月30日

海苔網は相当頑丈なのですが、あまり時間の過ぎないうちに数か所が何者かに歯で食い破られておりました。このままでは簡単に突破されてしまいそうです。

そこで海苔網の上に電気柵を張り巡らせることにして、早速自作に取り掛かりました。回路は失敗のリスクを避けるために出来るだけ完成品の組み合わせで済ませるようにして、電撃回路はベース基板だけを販売している物が有ったのでそれにバイク用のIGコイルやスイッチ類を割り込ませて造りました。



回路が組み上がりました。
ちなみに製作費は約4,000円です。

屋外で使用しますので、防水の為にタッパーに入れます。



測定の結果、発生電圧はIGコイル出口で7,000V出ていました。

実際の現場ではワイヤーの伝達ロスが有りますので、一番離れた場所では約4,000~5,000Vでした。


電気柵を周りに張り巡らせましたが、鹿対策には少し位置が低すぎました。

電源には取り外した中古のカーバッテリーを使用しています。バッテリーは何もなければ一ヶ月ほど持ちます。
2012年12月2日

果樹園を造ってまだ2年にも満たず、最初に植えた果樹たちももまだ人の背丈にも届かない小さな苗木ですが、夢だけがどんどん膨らみ、今度はリンゴを植えることにしました。 左側を増築して場所をつくることにします。



一回目の増築です。
右側が古い柵で、左に新たに柵を作って場所を広げ、リンゴ「フジ」と「紅玉」を植えました。
2013年12月11日

果樹たちも順調に成育し、去年は「堂々蜂屋」も10個ほど実がなったので早速干し柿を作りました。またプルーンもたくさんの実が生り、お砂糖で煮詰めてドライフルーツにして食べました。 只、栗は実が生るもののオヤジが常時山にいるわけではないので、頃合いを見計らって取りに行く頃にはリスに先を越されていて栗のイガしか残っていません。 なので一つ二つまだ木の上にあるものだけしか収穫できません。ブルーベリーも同じです。、鳥たちに先に食べられてしまってこちらの口に入るのはおこぼれだけです。 少々期待外れですが、自然の生き物たちが喜んでくれてると思うとすこし嬉しい気もします。(^^)

しかし、自然の生命力の強さには驚かされます。写真の様に、少し草刈りを怠けていると雑草がどんどん大きくなって果樹たちを飲み込んでしまいます。 特に今年は病院通いのために(「第35章、賞味期限迫る」)ほとんど山に来れなくなり、果樹園もこのような有様になってしましました。 今はまだ先のことはよく分かりませんが、しばらくはこの様な状態が続きそうです。
撮影:2015年8月5日


体調も落ち着いてきたのでまた山に来れる回数が増えました。
荒れていた果樹園も少しキレイにしましたので、二回目の増築をしたいと思います。実はかねてから是非育ててみたい果物があり、それを植えるためのスペースを造ることにしました。 その果物とは、幻の果物と呼ばれる「ポポー」です。日持ちがせず、市場にほとんど出回らないので、ゆえに「幻の果物」と言われるそうです。 子供のころに近所の家にポポーの木があり、いただいて何度か食べたような記憶が有るのですが、味ははっきりとは思い出せません。ネットで検索すると、その味はバナナとマンゴーとパイナップルをミックスしたような風味...だそうです。 これはもう自分で栽培するしか有りません。(^^)



二回目の増築です。
ここにポポーの木を4本植えました。
「オリバーリース」
「タイラー」
「レベッカ」
「スイートアリス」
2016年4月3日

ところで果樹園の防獣対策ですが、現在はノリ網と電気柵で二重の対策を行っていますが、実は電気柵には問題が有って冬の間は使えないことが判りました。
理由は積雪です。雪が積もるとワイヤーと地面がショートして常時電撃の状態になり、バッテリーがすぐに放電してしまうのです。 そんな訳で冬の間は電撃柵の使用をやめていたところ、みごとにやられてしまいました。恐らく鹿だと思います。冬の間エサが無くてお腹がすいていたのでしょう。ノリ網を食い破り、中に侵入して枝先を全てかじっていってしまいました。 おまけに、高いところの芽を食べるのに下の枝に足を掛けるため、多くの枝が折れてしまっています。

これには参りました。残された対策は、絶対に食い破られないように金属製のネットを張るしか有りません。 いろいろとインターネットなどで探し回った結果、イノシシ用の鉄製の柵で囲うことにしました。



ホームセンターで購入したイノシシ用の鉄製の柵です。

全部で30枚購入し、周りを囲いました。
2016年4月25日

取りあえず獣害対策の済んだところで次の作業に取り掛かります。植えたばかりのポポーの木やこれから増えていくであろう苗木達への水やりです。 ここは尾根に近いため上方からの水の補給が無く、土質もサラサラで保水性はあまり良く無さそうです。しっかり根が張るまで苗木達には厳しい環境です。 植え付け時に腐葉土などをすき込んで保水性の確保に努めてはいますが、これからやってくる夏に備えて、おやじが常に山に来なくても自動で灌水してくれる装置を造りたいと思います。

灌水用の水はタンクに貯めた雨水を使います。果樹園の上方30メートル程離れた所に500リットルのタンクを2基設置しました。 ここに貯めた雨水を自作した自動灌水装置(いろいろ写真集参照)に送り、定期的に果樹たちに給水します。



雨水を貯めるタンクです。
黄色いのはヤフオクで購入した農業用のタンクで、青いのは廃業した大工さんから頂いた受水槽です。

この下流に水量調整用のサブタンク(200リットル)が有ります。



赤枠内は自動灌水装置のタイマー部分です。給水スケジュールは自由に設定可能で、今は受水槽の容量を考慮して一日おきにしています。

水道ホースの末端にノズルが有り、そこから木の根元に給水します。
2016年6月10日

相変わらず病院通いの合間をぬっての山仕事ですが、古くなった柵の杭の交換やら、崩れた斜面の修復など果樹園にはまだまだやることがいっぱいあります。 特に一番下の道路との境の段差はこれ以上土が崩れない様に早めに対策をしなくてはなりません。ここにはコンクリートの板を当てて土留めにする計画で、そのための材料は全て尾根まで運びあげて有ります。使用するコンクリート板は近所の水道工事屋さんが引っ越しする際に不要になったのを全部で50枚程頂きました。大きさは2000x300x50で重量は約80kgもあります。

「第22章 資材倉庫の組立」でチラッと写真にうつっていますので既にお気づきかもしれませんが、おやじの軽トラにはクレーンがついています。これもほぼ自作で体力の衰えたおやじには必需品です。 軽トラへのコンクリート板の上げ下ろしや運搬車への乗せ換えの時にコンクリート板を掴むための特製のトングも作りました。



コンクリート板を掴むための特製のトングです。

コンクリート板の自重がグリップ力に変換されて強力に板を掴みます。

取りあえずここまで手筈を整えたところで一旦土留めの準備作業を休止しました。この先はかなりハードな作業になるからです。

止まれ!

一応現在の身分は病人なのですが、手足のしびれなど若干の抗癌剤の後遺症を除けば特に日常生活に支障は無く、一見ごく普通の生活を送っています。 ただダラダラと時間を過ごすのがもったいないので、無理をしない程度に山の作業を再開したのですが、冷静に見れば少し調子にのっている感は否めません。 病気再発のリスクが無いと判定されるまでにはあと最低4年間は病院通いを続けなくてはなりません。 既に山小屋プロジェクトの中止を決定したにも関わらずズルズルと活動を続けていることの矛盾を少し感じるようになりました。やはりどこかできっちりとけじめをつける必要があります。

やはり完全撤退しかありません。
最近植えたばかりの「ポポー」以外の他の果樹はすでにこの地にしっかりと根付いて大きく成長しています。このまま自然に任せておいても自分達だけで十分生きて行けるでしよう。生存競争は厳しいかもしれませんがなんとか他の木に負けないように頑張って欲しいと思います。

これで全ての作業は中止となり、果樹園の夢は終わりました。



久しぶりに訪れた果樹園の様子です。一番上の写真と同じアングルです。

もうすっかり元の自然に戻ったように見えますが、それでも果樹達は頑張っていました。

2018年6月2日

追信:まだ若い「ポポー」だけは自宅の庭に疎開させました。