36 消費期限も...?

退院から3週間経って定期検診のために病院へ行ってきました。今日は細胞検査の結果説明を受ける日です。ステージ3なので他への転移がないか正直すこし不安があります。 細胞検査のサンプルは一か所から複数個採取されているのでかなりの数です。これを一点々顕微鏡検査をするのでかなり時間が掛かるのでしょう。
結果はNGでした。しかし、神経節やリンパ節および切除した前後の小腸・大腸への浸潤はなかったものの、静脈への浸潤が確認された。 やっぱりと言うか、無事ではすまなかったようだ。

血管への浸潤が認められたため、治療のステージはこのあと抗がん剤治療へと移ることになりました。余談ですが患者の年齢によっては抗がん剤治療を行わないことも有るそうです。 どうやらオヤジはまだ世の中の利用価値が残っているみたいです。

色々な化学療法がある中で、ここの大学病院ではXELOX(ゼロックス)療法という治療法を採用していました。 色々な治療法の紹介やゼロックス法の有効性と副作用の説明、生存率などの様々な統計数値などが細かく記された20枚ほどの資料を渡されて説明を受けたあと、最後にこの治療法の有効性と安全性を検証するための臨床試験への参加を求められました。 時間をかけて丁寧な説明をしていただいた後だったので自然に病院への信頼も生まれ、医療の発展のためという言葉に背中を押されてなんとなく臨床試験へ参加することになりました。

実は重要なことですが、後日この臨床試験への参加はお断りをしました。

治療法の説明を受けているときはなんの疑いもなく臨床試験への参加を同意していたのですが、落ち着いて考えてみると何か腑に落ちないのです。
ゼロックス療法というのはオキサリプラチンという薬を2週間投与して1週間休薬するというパターンを8クール繰り返す療法ですが、この薬は体内への残存性が高く末梢神経の麻痺などの副作用が強いため途中で治療をリタイヤする人もいるほどきついものです。 そこでこの副作用を出来るだけ軽減するために、従来8クール投薬していたものを中間の4クルールを止めて前後の2クールだけに短縮した場合の薬の有効性と安全性をこの臨床試験で検証するのが目的だそうです。

しかしながら治療法を説明されたときの資料には、間欠投与でも十分な治療効果が得られていて、すでに確立された治療方法であるかのような説明でした。 それなのにどうしてまだ臨床試験が必要なのでしょうか?その時にはついついこの矛盾を見逃していましたが、オヤジの推測ではどうやら効果を立証するためのサンプル数を増やすのが目的ではないかと思います。

参加を断った決定的な理由は、サインを求められた同意書の文言に「この試験の目的や危険性を十分に理解し...云々」と記されていたからです。
オイオイ危険性なんか何んの説明もなかったぞ!

サンプル数を増やさなくてはならないというのは間欠投与が完全に継続投与と同じであるとまだ医学的に認められていないということで、場合によっては投薬量を半減したことで十分な治療効果が得られず癌の転移を防げなかったということもありえるわけで、そうであれば我々は完全にモルモット扱いです。運が悪かったでは済まされません。

副作用が強くて治療に耐えられない人は他人が変わってあげることが出来ませんので気の毒ですが諦めるしかないと思います。しかしそうではない患者にリスクを負わせて臨床試験をしようというのは納得がいきません。途中リタイヤした人のデーターを集計して、それを細かく分析すれば投薬回数と治療効果の関係はなにか見えてくるのではないでしょうか。それをするくらいの症例データーは有ると思います。

超高額な抗ガン剤オプジーボの適用拡大で社会保障費の財源問題(保険財政の破綻)が取りだたされていますが、この臨床試験の目的が薬剤費(医療費)の抑制でなければ良いのですが。
ともかく、癌の治療はやり直しができません。オヤジの考え過ぎかもしれませんが、そんなわけで臨床試験はキッパリとお断りしました。

1回目の投薬は不測の事態に備えて2泊3日の入院で行います。人によっては呼吸困難などショック症状を起こすこともあるそうです。 2回目からは外来の化学療法室で投薬(点滴)を受けますが、ここでも初回は緊急時の付き添いが求められました。

点滴には約1時間半かかります。治療の間は脇に備え付けられたテレビを観たり本を読んだりして過ごしますが、この薬は時々点滴針の周辺の血管に強烈な痛み(血管痛)を生ずることがあり、痛みが始まると点滴が終えるまでひたすら苦痛に耐え続けなければなりません。 毎回血管痛が起こるわけではありませんが、やはりここでもリタイヤする人がいるそうです。ちなみに点滴は一回で16万円、家での内服薬が1クール(2週間)分で5万円です。ただしこれは薬価ですので、オヤジの場合この3割が自己負担分となります。

抗がん剤治療で本当に大変なのは投薬時の痛みではなく副作用です。この薬の場合は末梢神経の感覚異常(手、足、つま先のしびれや口のまわり、喉のしびれ)や下痢、悪寒、嘔吐、食欲不振などが現れます。頭部の脱毛は有りませんでした。

個人差がありますのであくまでもオヤジの場合ですが、特につらかったのは咽喉部の感覚異常です。この症状は投薬から約10日間続きますが、体温より冷たいものを口にすると口や喉の周りがピリピリと締め付けられるようにしびれて何も飲み込むことが出来ません。

抗がん剤治療を行った期間がちょうど夏をまたいで春から秋にかけての半年間であったため、どんなに暑い日でも冷たいものは一切口にすることが出来ず、生暖かいお湯で喉の渇きを癒すしかありませんでした。蛇口からでる水道水でさえ受け付けません。 飲めるのは常温以上の飲み物だけですが、生ぬるいジュースなどは甘ったるくてとても飲めたものではありません。夏場に冷たいものが摂れないというのはかなりのストレスです。

手足もしびれて感覚が無くなります。足はちょうど長時間正座をしたあとのような感覚で、歩く時は足の裏に分厚いスポンジが貼り付いているような感じがして、注意しないと階段の上り下り時に踏み外しそうになります。また手のほうは指先の感覚が無いのでボタンがはずしにくいなど細かな作業がしにくくなり、文字もうまく書けません。また冷たいものに触れると電気ショックを受けたようにビリビリします。 それとともに手足の皮膚も乾燥してひび割れ易くなりますので、夏場でも保湿クリームが手放せません。

胃腸への影響も楽ではありませんでした。時には一日に数回下痢が起き、食欲も有りません。先生からは栄養バランスなどは考えなくてもよいのでとにかく食べられるものを食べなさいとアドバイスされましたが、夏の定番の冷やし中華もそうめんもダメ、冷えたスイカもアイスクリームもダメ。とにかく自分では食べたいものが浮かばないので、女房がいろいろと考えて作ってくれた料理の中から少しづつつまんで食べるだけでした。

このような生活が6ケ月間続いたわけですが、前述のようにオキサリプラチンは体内への残存性が高いために手足のしびれは数か月経った今も残っています。 現在は定期的なCTスキャンと腫瘍マーカーのモニタリングで経過観察を続けているところですが、こんな状態ですので山小屋計画はどうしようかと思案しているところです。