10 まむし?に遭遇

2007年5月。ゴールデンウイークがやってきました。ひさしぶりの山です。 正月休みに来た時とは打って変わって山全体が陽光に包まれ、ウグイスの鳴き声があちらこちらから聞こえてきます。 山も次第に木々が芽吹き始め、灰色だった景色が常緑樹の濃緑にうす緑や赤味を帯びた新芽の色が混じって賑やかになってきました。もうひと月もすれば山の中は下草が生い茂り歩くのも一苦労になるでしょう。

これから先の土地の整地や小屋の建設などの作業を考えたとき、コマツ君は絶対に欠かせない存在です。 ですから、なんとかコマツ君を山小屋建設予定地の尾根まで連れて行く方策を考えなくてはなりません。

ふもとの林道をそのまま進んでいくと、大きくカーブしながら尾根の3、4百メートル手前まで行くことが出来ます。 森林組合の地図によると、そこから小屋建設予定地までは細い小径が有ることに成っていますが、実際に現地に行ってみると道らしきものはなにもありません。

かつては敷地の境界に道らしきものが有ったのでしょうが、今はその痕跡は全くありません。幸い地面は一面枯葉で覆われているだけで平坦で歩くのは容易です。ただし、コマツ君を通すことになるとさまざまな点で問題がありそうです。

まず小径の両隣の地主から一時的に通行の承諾を得て作業通路を確保しなくてはなりません。それに多少の土木工事(じゃまな立木の伐採と急傾斜部分の地ならし等)。 シカやイノシシが通るだけであれば、境界線などは普段全く意識はされないでしょうが、あらたに人工的な線(道)を引こうとすると途端に隣同士の境界線問題が持ち上がってくる事は目に見えています。 「君子危うきに近寄らず」です。小屋を建てた後も気兼ねなく自由に往来するにはやはり自前の道を造るしかありません。

斜面下の林道の接点から尾根までは標高差で約60メートルほどです。 林道から以前小屋建設の候補に挙げた中間点まではざっと見て勾配約25度ほどです。 この中間点を経由して稜線へ至る道を切り開けばなんとかコマツ君を引き上げることが出来そうです。 乗用車を乗り入れるわけではないので、幅1.5メートルのコマツ君を通すだけなら削った後の法面の崩れに注意しさえすれば道の勾配はさほど気にする必要はないでしょう。 山を掘り進むのは結構しんどそうですが、まあ何とか成るでしょう。“案ずるより生むが易し”です。


林道の終点から行けば比較的楽なのですが、他人の土地を通らなければならないので、やはり自前の道を切り開くことにします。

最終的に調査を終えて決めたルートは、距離にしておよそ250m位になりそうです。

冬に中間点を調べた時にそこから尾根までは比較的暖傾斜であることは確認してあります。 したがって、今回は下半分のルート探索を行うことにします。 のちのち荷車などで荷揚げが出来るように階段は作らず、約10~15度、斜度にして20パーセント前後をイメージしながら中間点から林道へ向けて地形を調べていきます。 地面にはあちこち獣道が走っており、結果的にこれらをなぞって下るような形になりました。やはり動物達も出来るだけ楽な地形を選んで通っているようです。

周りから伸びる木の枝やツルが顔を打つので、それらを鉈で払いながら頭上と足元を交互に注意しながら歩きます。 少し進んだ所で、なにか一瞬地面の模様が揺れたような気がしました。よく見ると1メートル程前方に灰色(定かではないが)の胴体を持った蛇がとぐろをまいてこちらを向いています。 音でも立てれば驚いて逃げるだろうと思い、鉈で近くの雑木を叩いて警告を与えると、なんとそいつは逃げるどころか体をS字にくねらせてしっぽを激しく振りだしたのです。 くねらせた胴体の上に鎌首をもたげ、こちらを睨みながら「シャラ.シャラ.シャラ」と激しく音を立てながら今にも飛掛からんばかり。

「ヤバイ!」
こんなのに噛まれたら一大事です。
こちらも鉈を持っているのですが、とても野生の反射神経には適いそうもありません。ここは無用な危険を冒すのは止めたほうが無難です。おとなしくそっと後退してその場を離れました。

そんなわけで今回のルート探索は開始早々に中止となってしまいました。 法面を補強しながらの道路工事で結構時間が掛かりそうなので、年内開通を目指して出来るだけ早くルート設定を終えたいと思っていましたがとんだ結末でした。

それにしても、あの「シャラシャラ野郎」に出会うまで、いままでその存在を全く気にもせず、無用心に山中を歩き回っていたことを考えると少し背筋が涼しくなってきました。次回からは足元に十分注意を払うことにします。こんな所でヤツに噛まれたら死体が白骨化するまで誰にも発見して貰えないかも...。
しかしあいつはいったい何者なんでしょう? 正直なところ正体はわかりません(ビビってすぐに退散したので)。でも、人間に対するあの攻撃的な反応からみてヤツは絶対にマムシのような気がするのですが???


	ヤイヤイ! ここはオレ様の縄張りだッ!