1996年9月14日。熊本県南部 某所 山中     その時の外の写真です

いつものようにキャンプ地を探しながら通りがかったスーパー(雑貨屋)で買出しをすることにした。
野宿出来そうな場所を店の主人に尋ねるとこの先の道を登ったところに小さな公園があるという。

さっそく教わったとおりに細い山道をしばらく登っていくと、やがて木々に囲まれてすこしだけひらけた場所が見つかった。
公園にしては遊戯具は何もなく、古びた藤棚と切り株のようなベンチがひとつふたつ有るだけだ。まあそれでもテントさえ張れれば問題はない。これまで何度も同じような状況で野宿をしてきた。

山中の日暮れは早く、適当な場所にテントを張り食事を始める頃には辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
荷物を減らすため明かりはペンシルライトひとつしか持っていない。暗い中で切り株のベンチに座って手探りで買ってきた弁当を食べる。
登ってきた道はどこかに続いているのか、それとも行き止まりなのかよく判らない。 明日はふもとまで来た道をまた戻る事になりそうだ。
なにもすることがないので、明日の朝に備えて早々に寝袋にもぐりこむ。

半分夢うつつのなかで何か人の声が聞こえたような気がした。

...すみませ~ん...

ウァッ!...思わず体がこわばる。
横たわったまま目だけを開けるが、真っ暗闇で何も見えない。
「今のは夢か...?」

異常を感じて全感覚がぴーんと張り詰めるが、逆に脳から筋肉への指令は緩慢になる。
出来るだけ物音を立てないようにそっと体を回し、腕時計のバックライトを点けると時刻は既に深夜である。あと15分程で12時になるところだ。
しばらく横たわったままの状態で、外の様子にじっと耳を澄ます。

...すみませ~ん...

間違いない‼
はっきりと聞こえた。
先ほどから意識は完全に目覚めている。
これは夢ではない。
誰かがいる。

「なんだ今のは?」
時刻は既に真夜中である。 しかもここは人っ子一人いない山の中。
不気味な想像がジワジワと襲ってくる。
相変わらずテントの中は真っ暗闇で、自分以外に人の気配は全く無い。

意識は以外に冷静であるが、さすがに外に出て正体を確認する勇気はでてこない。
「よし、次に声がしたら外にでてみよう」...、ようやく決心を固めてじっと外の様子を伺う。

静まり返った深夜の山中である。 人がいれば必ず気配がするはずだ。
ましてや本当の人間が声を掛けたのであれば、深夜に寝ている人を起こしておいてそのまま沈黙しているはずが無い。
あれやこれや考えながら神経を研ぎ澄まし、じっと外の様子を伺うが全く何も聞こえない。
人の足音も動く気配もまったくしない。

......

半ば金縛りの状態でどれくらいの時間待っていただろうか?
次第に緊張と睡魔の境界が無くなり、いつのまにかまた眠ってしまった。

次に意識が戻ったときは既に午前4時近くになっていた。
周囲は依然としてまだ暗いが思い切ってテントの外に出てみる。
テントの横に愛車が一人ポツンと佇んでいるだけで何も見えない。(写真)

これまでも幾度か野宿で不思議な物音を聞いたことは有るが、人の声は始めての体験だ。
早々にテントを畳んで山を下ったのは言うまでも無い。


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